「予期悲嘆」とは — 終わりが見えてきたとき、その気持ちには名前がある

方針を決めても、気持ちがそのとおりに片づくわけではありません。まだ元気なうちから始まる悲しみには「予期悲嘆」という呼び名があります。名前と、話せる相手の見つけ方を整理します。

方針は決めた。話し合いもした。書き残してもある。

それでも、夜になると考えます。

「あれでよかったのか」「もっと別の選び方があったんじゃないか」

決めたのに決まらない。この感じは、決め方が悪かったからではありません。

決めることと、納得することは別

人生会議でも、施設の看取りの方針でも、決めるのは一度で済みます。書面にすれば残ります。

気持ちのほうは、そういう作りになっていません。

同じことを何度も考え直すし、日によって答えが変わります。それは迷っているのではなく、考え続けているということです。

決めた内容は、あとから変えていいことになっています。人生会議は「繰り返し話し合う」取組です。一度決めたら終わり、ではない。

だから、考え直しているのは正常な動きです。

「予期悲嘆」という呼び名

まだ亡くなっていないうちから、悲しくなることがあります。

  • 元気だったころの写真が見られない
  • 会いに行くのが、少ししんどい
  • 会っていないときのほうが、よく考えてしまう
  • 先のことを考えている自分に、はっとする

これには 予期悲嘆(よきひたん) という呼び名があります。失う前から始まる悲しみのことです。

呼び名があるということは、多くの人に起きているということです。

名前を知っておくと、少し扱いやすくなります。 「自分がおかしいのか」ではなく、「これは予期悲嘆だ」と置ける。

気持ちは、順番に来ない

こういうものは、段階を踏んで進むように書かれることが多いのですが、実際にはそうなりません。

受け入れたつもりの翌日に、また戻ります。 落ち着いていたのに、ふとした瞬間に崩れます。

行ったり来たりするのが普通です。戻ったからといって、前に進んでいないわけではありません。

話す相手は、家族の外にもいる

家族の中だけで話そうとすると、行き詰まることがあります。同じことを心配している人同士だと、お互いを気づかって言えなくなる。

外に置ける場所があります。

訪問看護師

終わりの時期を何度も見ている職種です。

「こういうとき、みなさんどうされていますか」と聞くと、経験から答えが返ってきます。自分だけではないと分かるだけでも、置き場所になります。

24時間対応の体制を取っている事業所なら、夜間に電話できる番号があります。用件が医療のことでなくても、かけていいかどうかは、事前に聞いておけます。

ケアマネジャー

サービスの調整だけの役割ではありません。話を聞くところまで含めて仕事です。

月に一度の訪問のときに、10分でも時間を取ってもらう。「相談したいことがあります」と先に言っておくと、その時間で来てくれます。

地域包括支援センター

家族の相談も受け付けています。本人のことでなくても構いません。

「家族が話を聞いてもらえる場所はありますか」と聞けば、地域にある集まりを教えてもらえることがあります。

「元気でいなくては」を、置いておく

家族が気持ちを整理していないと本人に伝わる、という言い方をされることがあります。

そう考えなくていいと思います。

一緒にいる時間は、平気なふりをするための時間ではありません。ぼんやりしている日も、うまく話せない日も、そのままでいい時間です。

本人のほうも、いつも気を張っているわけではありません。お互い、そういう日があるだけです。

何もしない時間を、予定に入れる

段取りの多い時期です。手続き、連絡、面会、書類。

予定を埋めていると、考えなくて済みます。 それで助かる日もありますが、ずっとは続きません。

何もしない時間を予定として置くと、扱いやすくなります。買い物のあとに30分だけ寄り道する、面会の帰りに車の中でしばらく座っている。目的のない時間を、意図的に取る。

決めたことは、変えられる

もう一度書いておきます。

方針は変えられます。 気持ちが変わったなら、それを言っていい。人生会議も、施設の看取りの方針も、変更を前提に作られています

言い方は、これで足ります。

「前に話したことなんですが、もう一度相談したいです」

理由から説明しなくていい。変えたいと言うだけで、話は始まります。

この記事で扱っていないこと

眠れない日が続く、食べられない、日常が回らない——そこまで来ているときは、この記事の範囲ではありません。かかりつけ医か、地域包括支援センターに、そのまま伝えてください。

ここで書いたのは、その手前の、名前をつけておくと少し扱いやすくなるあたりのことです。


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ご注意: この記事は、心身の不調についての医療的な助言ではありません。眠れない・食べられない状態が続くときは、かかりつけ医か地域包括支援センターにご相談ください。

今日も、読んでくださってありがとうございます。